水彩調のイラストで、山あいの小さな宿の縁側と、地元の市場の露店、緑豊かな棚田を背景に、旅行者が地元の人とゆるやかな距離で言葉を交わす場面を描いた構図。判読できる文字やロゴ、実在する国旗を特定できる描写は入れない

宿の予約ページやツアーのパンフレットで、「泊まるだけで地域に貢献」「選ぶだけでサステナブル」といった文句を見かける機会が増えた。響きはよいが、具体的に何がどう地域の役に立っているのかまで説明してくれる宿は、実はそれほど多くない。売り文句としての「サステナブル」と、実際の取り組みの中身は、必ずしも一致するとは限らない。

本記事では、サステナブルツーリズム(持続可能な観光)という言葉が指す範囲を整理したうえで、地域にお金が落ちる仕組み、認証・ラベルの意味と限界、グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)の見分け方、旅行者として無理なくできることを順に見ていく。ある宿やツアーが実際にどれだけ地域に貢献しているかを本記事だけで断定することはできない。あくまで、うのみにせず自分で確認するための視点を持ち帰ってもらうことが目的だ。

「泊まるだけで地域に貢献」は、何を指しているのか

この手のキャッチコピーが指す中身は、宿やツアーによってかなり幅がある。宿泊料の一部を地元の環境保全団体に寄付している場合もあれば、地元産の食材をレストランで使っている程度のこともある。従業員を地元から雇用しているだけで「地域貢献」を掲げているケースもあり、貢献の度合いも仕組みも一様ではない。

問題は、外から見ただけではその中身を判別しにくいことだ。「地域に貢献」という一文だけが独り歩きし、具体的に何にいくら回っているのか、誰が検証しているのかが示されていない宿も少なくない。まずは「貢献」という言葉が具体的な仕組みを伴っているか、それとも印象づけのための表現にとどまっているかを見分ける視点を持つことが出発点になる。

サステナブルツーリズムとは、そもそも何を意味するか

国連の専門機関である国連世界観光機関(UNWTO)は、サステナブルツーリズムを「訪問客、産業、環境、受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光」と説明している。日本政府観光局(JNTO)もこの定義を紹介したうえで、「環境」「文化」「経済」の三つを守り・育むことを、サステナブル・ツーリズムへの取り組みのゴールとして掲げている。

環境面では自然資源や生物多様性への負荷を抑えること、社会文化面では地域の伝統や暮らしを尊重し継承に資すること、経済面では観光による収益が地域の雇用や事業に結びつくことが、それぞれ重視される。三つのどれか一つだけを満たせば「サステナブル」と言えるわけではなく、バランスの取れ方が問われる考え方だと理解しておきたい。

観光庁も、国際基準である「GSTC地域基準(GSTC-D)」に準拠した「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」を策定し、自治体や観光地域づくり法人(DMO)が観光地全体をマネジメントする際の指標として活用できるようにしている。これは個別の宿やツアーというより観光地全体を対象にした枠組みだが、「サステナブルな観光」という言葉が国内でも公的な定義と指標を持つに至っている、という背景として押さえておくとよい。

「地域にお金が落ちる」とは、具体的にどういう状態か

観光でお金を使ったからといって、そのすべてが宿泊先の地域に残るわけではない。観光の分野では、旅行者が支出したお金のうち、地元に残らず域外の本社や仕入れ先、外国資本などへ流出する部分を「リーケージ(漏出)」と呼ぶ。大手予約サイトの手数料、外資系チェーンの本社利益、地元で調達されない輸入食材や資材の費用などが、この漏出にあたる。

逆に言えば、地元の個人経営の宿を選ぶ、地元の食材を使う店で食事をする、地元のガイドや交通機関を利用するといった選択は、その分だけお金が地域内で循環しやすくなる方向に働く。観光庁が推進するガストロノミーツーリズムの取り組みでも、地域の食材を積極的に活用し地産地消のメニューを作ることが、宿泊業の付加価値向上と地域経済の活性化につながる要素として位置づけられている。ただし、どの程度の割合が実際に地域に残るかは、事業者の仕入れ方針や雇用形態によって大きく変わり、外からは正確に把握しにくい。「地元経営」「地元雇用」をうたっているかどうかは、確認できる手がかりの一つとして見ておく程度にとどめたい。

認証・ラベルは何を保証していて、何を保証していないか

宿やツアーの中には、第三者機関による認証マークを掲げているところがある。代表的なものに、GSTC(Global Sustainable Tourism Council)が策定する国際基準、デンマークの国際環境教育基金(FEE)が運営する宿泊施設向けエコラベル「Green Key(グリーンキー)」、旅行会社・ツアーオペレーター向けの認証制度「Travelife」などがある。日本国内では、一般社団法人JARTAがグリーンキー・トラベライフ・ブルーフラッグを扱っており、グリーンキーについては2022年に国内事業者向けの窓口運営を始めている。

これらの認証を取るには、エネルギー・廃棄物・水の管理や、環境方針の文書化、継続的な改善の仕組みなど、一定の基準を満たし、多くの場合は定期的な再審査を受け続ける必要がある。GSTC自体は個々の宿を直接認証するのではなく、各国の認証機関(Certification Body)を認定するという二段構えの仕組みを取っており、認証マークの背後にどの機関の審査が入っているかによって厳密さも変わってくる。

名称位置づけ主に見ている範囲覚えておきたい点
GSTC(基準) 宿泊・ツアー・観光地向けの国際基準を策定する団体 マネジメント体制・社会経済・文化・環境の4分野 GSTC自体が個別施設を直接認証するのではなく、認証機関を認定する立場
Green Key FEE(国際環境教育基金)運営の宿泊施設向けエコラベル 省エネ・節水・廃棄物削減に加え、環境教育や地域経済・文化への貢献も基準に含む 1994年にデンマークで始まり、2003年からFEEが国際認証プログラムとして運営
Travelife 旅行会社・ツアーオペレーター向けの認証制度(宿泊施設向けではない) 会社の経営から現地のサプライチェーンまで 認証段階の要件はGSTC基準に沿うと運営者自身が明示。商標はABTAが保有
JSTS-D(国内) 観光庁が策定した観光地・DMO向けの指標 観光地全体のマネジメント・住民満足度など 個々の宿ではなく地域・自治体単位の枠組み
認証マークがあることは、第三者の審査を経ているという一つの目安にはなるが、認証がない宿がすべて配慮を欠いているわけではない。小規模な宿では、審査費用や手続きの負担から認証を取得していないだけで、実質的な取り組みは進んでいる場合もある。逆に認証を取っていても、更新が滞っていたり、審査範囲が限定的だったりすることもあるため、「認証があれば万能」と考えず、あくまで確認材料の一つとして扱いたい。

グリーンウォッシュを見分ける、いくつかの手がかり

環境省は、実際には環境への影響が乏しいにもかかわらず、あたかも配慮しているかのように見せる表示を「グリーンウォッシュ」の問題として捉え、事業者向けの「環境表示ガイドライン」を策定・改定している。宿泊・旅行の分野でも同じ構図は起こりうる。環境NGOグリーンピース・ジャパンは、調査会社TerraChoiceが2010年のレポートで整理した「グリーンウォッシュの7つの罪」(隠れたトレードオフ、証明しない、あいまいさ、偽りのラベルを崇拝する、無関係、悪を比べてましなものを宣伝する、など)を見分け方として紹介している。これを宿泊・旅行の文脈に置き換えると、次のような点に注意を向けると判断しやすくなる。

  • 「エコ」「サステナブル」といった言葉だけで、具体的に何をしているかの説明がない
  • タオル・シーツの再利用など、コストのかからない一部の取り組みだけを大きく打ち出している
  • 第三者機関による検証や認証への言及が一切なく、自己申告のみで完結している
  • 建物の建設過程や食材の輸送距離など、目に見えにくい部分の負荷には触れていない

これらに複数当てはまるからといって、その宿が「嘘をついている」と断定はできない。ただ、具体性のない言葉だけで語られている「貢献」は、実態を伴っているかどうかを外から確かめる手段が乏しいという点は意識しておいたほうがよい。宿の公式サイトやサステナビリティ関連のページで、どんな取り組みを、いつから、どんな体制で行っているかまで書かれているかどうかを見ると、判断の材料が増える。

旅行者として、無理なくできること

サステナブルツーリズムというと大がかりな話に聞こえるかもしれないが、旅行者ひとりができることは、日々の選択の積み重ねに近い。次のような行動は、特別な準備がなくても取り入れやすい。

  • 食事や買い物は、チェーン店だけでなく地元の店や市場も選択肢に入れる
  • 移動は可能な範囲で公共交通や徒歩・自転車を選び、混雑する時期・時間帯を避ける
  • 宿やツアーの取り組みが具体的に書かれているか、予約前にひと目通す
  • 現地の習慣やマナー、立ち入りが制限されている場所への配慮を事前に調べる
  • 使い捨てのアメニティやペットボトルなど、必要な分だけ使い、過剰に持ち帰らない

どれも「これをしないと旅行者失格」というほど強制力のある話ではない。無理に完璧を目指すより、できる範囲で選択肢を意識するくらいの姿勢のほうが、長く続けやすいという考え方も紹介されている。オーバーツーリズムが課題になっている観光地では、混雑期を避けて訪れること自体が、地域住民の生活への負荷を抑える一つの選択になる。

「貢献」を過信しない——旅そのものの負荷はゼロにならない

ここまで挙げてきた選び方を実践しても、旅行にともなう環境負荷や地域への影響がゼロになるわけではない。飛行機や車での移動には相応のエネルギーが使われるし、大勢の旅行者が同じ場所を訪れれば、どれだけ配慮しても一定の混雑や摩耗は生じる。「このホテルに泊まれば地域貢献になる」という単純な図式で自分を納得させてしまうと、かえって旅行そのものの負荷から目をそらすことにもなりかねない。

サステナブルツーリズムは、旅行を完全に無害化する魔法の仕組みではなく、影響を認識したうえで、できる範囲で軽減し、地域にとってもプラスになる比重を増やしていこうという考え方に近い。「貢献した」という達成感を目的にするより、自分の旅がどんな影響を及ぼしうるかを知ったうえで選ぶ、という姿勢のほうが実態に近いだろう。

まとめ——うのみにせず、確認できる範囲で選ぶ

「泊まるだけで地域に貢献」という言葉は、宿やツアーによって指している中身がまったく違う。UNWTOやJNTOが示す環境・社会文化・経済という三つの側面、地域にお金が残るかどうかという仕組み、GSTCやGreen Keyのような第三者認証の有無と限界、そしてグリーンウォッシュの兆候——これらを手がかりにすれば、キャッチコピーだけで判断するより一段階、確からしさを確かめられる。

それでも、外部から旅行者が実際の貢献度を正確に測ることは難しい。認証がある宿が必ず優れているとも、認証がない宿が配慮を欠いているとも言い切れない以上、最終的には「確認できる範囲で、より具体的な説明をしている選択肢を選ぶ」という、地味だが現実的な姿勢に落ち着く。うのみにせず、自分なりに確かめながら選ぶ——それ自体が、サステナブルツーリズムという考え方に近づく一歩になる。

参考