長距離のフライトで「機内でよく眠れる方法」を一つだけ探そうとすると、たいてい行き詰まる。眠りやすさは座席の位置、出発前からの体内時計の整え方、持っていくもの、機内での過ごし方、そして体調面の配慮まで、複数の要素が重なって決まるものだからだ。どれか一つを完璧にしても、他が抜けていれば眠りにくさは残る。
この記事では、機内で眠りやすくするために確認しておきたい考え方を、座席選びから時差調整、持ち物、過ごし方、健康面の注意まで順番に整理する。効果の感じ方には個人差があり、「これをすれば必ず眠れる」という保証はどの方法にもない前提で読み進めてほしい。
それぞれの項目は独立した小技ではなく、互いに補い合う関係にある。眠りやすい座席を選んでも、出発前の生活リズムが崩れたままでは効果を感じにくいし、持ち物をそろえても、機内でカフェインを摂り続けていれば眠気は遠のく。全体の組み合わせとして見ていくことが、遠回りに見えて実は近道になる。
眠りやすさを考えた座席の選び方
座席の位置は、機内での眠りやすさに関わる要素の一つとしてよく挙げられる。窓側の座席は壁にもたれる姿勢を取りやすく、通路側の人がトイレなどで席を立つたびに起こされる頻度も抑えやすい。一方で通路側は自分の判断で自由に立てる利点があり、圧迫感を覚えにくいという人もいる。どちらが合うかは体格や旅の目的によって分かれるため、一方を万人向けとして断定はできない。
3人掛けの中央(ミドル)座席は、左右どちらの通路に出るにも隣の人に断る必要があり、肘掛けの取り合いも起きやすいため、眠りやすさという観点では選びにくいと感じる人が多い座席でもある。窓側・通路側がすでにふさがっている場合の消去法になりやすい配置だが、同行者と隣り合わせで座りたいなど別の目的があるときは、この限りではない。
非常口の前や隔壁の前の座席は、足元の空間が広く取られていることが多い。ただし機材や航空会社によって配置はさまざまで、座席によってはリクライニングそのものができない、あるいは肘掛けが固定されているといった制約が付くこともある。予約時の座席マップや案内で、その座席固有の条件を確認しておくと想定との差が出にくい。
リクライニングの効きやすさも見落とされがちな観点だ。最後列付近は後ろに人がいない分だけ気兼ねなく倒せる一方、壁際でリクライニング角度そのものが制限されている機体もある。トイレやギャレー(調理・配膳スペース)に近い座席は、人の往来や光、作業音で目が覚めやすいとされ、静けさを優先するなら避けておきたい位置になる。
足元の広い座席やリクライニング幅の大きい座席は、追加料金が必要な有料指定枠として扱われていることも少なくない。座席表を確認する際は、標準座席と有料座席が地図上でどのように色分けされているかも合わせて見ておくと、想定より費用がかさむ事態を避けやすい。
窓側・非常口前・リクライニングの効く位置といった条件がそろった座席は数に限りがあり、搭乗手続きの時点まで待っていると、希望の座席がすでに埋まっていることも珍しくない。こうした座席を狙って押さえるには、座席指定ができる段階、つまり航空券の予約を早めに済ませておく段取りが要になる。
出発前からの時差調整
時差ぼけは、厚生労働省の情報サイト「e-ヘルスネット」で概日リズム睡眠障害の一つ「時差症候群」として説明されている状態で、体内時計が新しい現地時間にすぐには合わないために生じるとされる。到着してから慌てて調整するより、出発前の数日から少しずつ生活のリズムを現地時間に近づけておくほうが、負担を分散しやすい考え方として知られている。
同サイトの体内時計に関する解説によれば、朝の強い光は体内時計を前に進めやすく、夜の光は逆に後ろへずらしやすいとされる。東へ向かう(現地時間が進む)フライトでは早寝早起きの方向に、西へ向かう(現地時間が遅れる)フライトでは遅寝遅起きの方向に、出発前から少しずつ寝る時刻・起きる時刻をずらしていくという考え方は、この光と体内時計の関係を踏まえたものだ。ただし移動距離や方向によって適した調整幅は変わるため、一律の日数を当てはめて断定することは避けたい。
食事のタイミングを少しずつ現地時間側に寄せておくことも、体内時計を整える手がかりの一つとして紹介されることがある。到着後は、眠くても現地の日中は日光の下で活動し、現地の食事時間に合わせて食べるようにすると、無理に机上の予定だけで頑張るよりも体内時計がなじみやすいとされる。
出発の数日前からいきなり生活時間を大きく崩す必要はない。厚生労働省検疫所のFORTHは、出発までに日数があれば1日に1時間ずつを目標に、睡眠・覚醒の時刻を現地時間へ徐々に寄せていくと効果的な場合があるとしている。仕事や生活の都合で大きくは動かせない場合でも、出発前夜の睡眠不足を避け、体調を整えた状態で搭乗すること自体が、時差の影響を和らげる土台になる。
時差の出方は方向によっても変わる。e-ヘルスネットは、概日リズムは後退より前進しにくいため西行きより東行きのフライトで症状が強いのが一般的だとしており、FORTHも東へ向かう場合のほうが強くなると説明している。滞在日数が短い出張などでは、現地時間に無理に合わせず、日本時間に近いリズムのまま過ごすという判断が取られることもあり、どちらが向いているかは旅程の長さや目的によって一律には言えない。
眠りをサポートする持ち物の考え方
アイマスクは機内の照明や、隣席の読書灯などの光を遮る目的で使われることが多い。耳栓やノイズキャンセリング機能のあるイヤホンは、エンジン音や周囲の話し声を和らげる方向で選ばれる。どちらも効果の感じ方には個人差があり、特定の銘柄や機能を優劣で語ることはこの記事では避けるが、光と音のどちらが自分にとって眠りを妨げやすいかを振り返って選ぶと、持ち物を絞りやすい。
耳栓とノイズキャンセリングイヤホンは、遮音の仕組みが異なる。耳栓は電源が要らず軽量な一方、機内アナウンスも聞こえにくくなる。ノイズキャンセリングイヤホンはエンジン音のような持続する低い音を打ち消す仕組みで、会話や高い音まで完全には消しきれないことが多く、電池残量にも注意が要る。フライトの長さや荷物の量に応じて、どちらを優先するか考えておくとよい。
首まくらは、座ったまま眠るときに頭が大きく傾くのを支える目的で使われる。形状や素材はU字型・空気で膨らませるタイプなど幅があり、荷物のかさばりと支えやすさのどちらを優先するかで選び方が変わる。ブランケットは、機内の空調で体感温度が下がりやすいことへの備えとして持参する人がおり、機内で配布・貸与される場合でも、薄手のものを一枚追加すると調整の幅が広がる。
服装は締め付けの少ないものを選び、靴はひもを緩めるか脱ぎやすいものにしておくと、長時間座ったままでも血流や体の圧迫感への負担を抑えやすい。この点は次の「健康面の注意」でも改めて触れる。
機内での過ごし方
カフェインには覚醒作用がある。e-ヘルスネットの「快眠と生活習慣」は、カフェインの代謝には個人差があり、敏感な人は就寝の5〜6時間前から控えたほうがよいとしている。眠る予定の時間帯が近づいたら、コーヒーや緑茶、エナジードリンクなどカフェインを含む飲み物は控えめにしておくという考え方は、機内でも当てはめやすい。
アルコールは寝つきをよくする感覚を与えることがある一方、同解説では、睡眠の後半で深い眠りが減り、途中で目が覚めやすくなる傾向が示されている。飲んだ直後は眠くなっても、結果として眠りが浅く途切れがちになりやすいという点は、機内での一杯を考えるときにも留めておきたい。
機内で喉や肌の乾きを感じることは多い。水分はいずれにしても不足させたくないので、こまめに水を飲んでおきたい。座ったままの足の運動と、可能なタイミングで通路を歩くことは、FORTHが予防方法として挙げている。同サイトは座ったままできる運動の一例として、床につま先をつけてかかとを上げ左右の親指を3秒間押し合う、次にかかとを床につけてつま先を上げて同様にする、これを10回繰り返す動作を30分に1回行う方法を挙げている。機内食は、消灯や照明が落ちる前に済ませておくほうが、そのあと休息に移りやすい——これは本稿の見立てで、出典に基づくものではない。
座席まわりの環境も、できる範囲で自分で整えたい。窓のシェードを閉めれば外の明るさを遮りやすく、頭上の空調口(エアベント)を軽く動かせば、風の当たり方をある程度は調整できる。座席に備え付けの読書灯を早めに消しておくことも、周囲を眠りやすい明るさに近づける小さな工夫になる。
ここまでの内容を、機内で実践しやすい形に落とし込むと、次のように整理できる。
- 眠る予定の時間が近づいたら、コーヒーやエナジードリンクなどカフェインを含む飲み物を控える
- アルコールは深酒を避け、水と交互にとるようにする
- 座ったままできる足首回し・つま先の上げ下げをこまめに挟む
- 機内食は照明が落ちる前に済ませ、そのあとは休息に切り替える
長時間のフライトと体への負担
眠ることを優先すると、同じ姿勢のまま脚を動かさない時間が長くなる。ここに、眠りやすさとは別の問題がある。厚生労働省検疫所のFORTHは、窮屈な座席で長時間同じ姿勢のままでいると血の流れが悪くなり、血管の中に血のかたまりが作られてそこに痛みや腫れが生じることがある(深部静脈血栓症)とし、そのかたまりがはがれて肺の血管につまると胸が痛い・呼吸が苦しいなどの症状をおこす(肺塞栓症)、肺塞栓症は程度が重いと死亡する可能性もある重大な病気だと説明している。同サイトは、エコノミークラス症候群と呼ばれるがビジネスクラスやファーストクラスでも起き、その他の交通機関でも長時間同じ姿勢をとった場合に起きる可能性があるとも書き添えている。
FORTHが挙げる予防方法は、水分をしっかりとること(アルコールは脱水を起こしやすいのでほどほどにする)、ときどき足と体を動かすこと、ゆったりとした服を着ることの3つで、弾性ストッキングの効果も指摘されているとしている。危険性が高くなる場合として同サイトが並べているのは、4時間以上の長時間の飛行、短期間に頻回飛行機を利用した場合、高齢者、肥満のある人、最近大きな手術を受けた人、妊婦、ホルモン補充療法中の人や経口避妊薬を飲んでいる人、がんのある人だ。心当たりがある場合は、搭乗前にかかりつけ医へ相談しておきたい。眠りやすさを優先して長時間ひざを抱えるような姿勢を続けることも、同じ理由から避けたほうがよい。
「眠れないから」といって、市販の睡眠改善薬や睡眠導入剤を自己判断で使うことは避けたい。FORTHも睡眠薬の服用は一つの手段としつつ、飛行機では水分が不十分になってエコノミークラス症候群の誘因となったり、とりがちなアルコールによって作用が強まったりすることがあるとして、必ずかかりつけ医に相談して処方を受けるよう求めている。持病や服用中の薬がある場合はもちろん、初めて使う薬であっても、機内という環境で予期しない眠気の残り方や体調変化が出ないとは言い切れない。使用を検討する場合は、事前に医師または薬剤師に相談し、用法・用量を守ることが前提になる。
着陸後にふくらはぎの腫れや痛み、息苦しさなど気になる症状が出た場合は、旅の疲れとして様子見にせず、早めに医療機関へ相談したほうがよい場面もある。長距離便のあとは、機内で我慢していた違和感を軽く見ない姿勢が、体調管理の面でも大切になる。
まとめ
機内で眠りやすくするための「これさえやれば必ず眠れる」という単一の方法は存在しない。座席の選び方、出発前からの時差調整、アイマスクや首まくらといった持ち物、カフェイン・アルコールとの付き合い方や水分・体を動かすタイミング、そして長時間同じ姿勢でいることへの健康面の配慮を、自分の体質やフライトの条件に合わせて組み合わせていくことが現実的な近づき方になる。
座席は早めの予約で希望の位置を確保し、時差調整は出発の数日前から少しずつ、持ち物は光と音のどちらが気になるかで選ぶ。過ごし方では水分と軽い体の動きを意識し、体調面で気になることがあれば無理に自己判断せず、医師・薬剤師など専門家に確認したうえで搭乗に臨んでほしい。
同じフライトでも、隣に座る人や機材、その日の体調によって眠りやすさは変わる。一度で完璧な組み合わせを見つけようとせず、次のフライトで少しずつ自分に合う形へ調整していくくらいの気持ちで臨むほうが、結果的に無理のない付き合い方になりやすい。
参考
- 健康日本21アクション支援システム/e-ヘルスネット「概日リズム睡眠障害」 — https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/heart/yk-007.html
- 健康日本21アクション支援システム/e-ヘルスネット「体内時計」 — https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/heart/yk-039.html
- 健康日本21アクション支援システム/e-ヘルスネット「概日リズム睡眠・覚醒障害」 — https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/heart/k-02-006.html
- 健康日本21アクション支援システム/e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」 — https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/heart/k-01-004.html
- 健康日本21アクション支援システム/e-ヘルスネット「アルコールの作用」 — https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-02-003.html
- 厚生労働省検疫所 FORTH「病気にならないために」(時差ぼけ対策/怖い!エコノミークラス症候群) — https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/attention03.html