地図で太平洋を眺めると、ハワイ諸島のまわりにはただ青が広がっている。最寄りの大陸まで約3,000km。米国本土からは南西へ約3,200km離れている。その海のただ中に、人は二度たどり着いた。最初はカヌーで、いまは私たちが飛行機で。
機内の窓が薄明るくなって、眼下にようやく島影が見えてくるとき、私はいつも少しだけ落ち着かない気持ちになる。これほど何もない海の真ん中に、どうして緑の島があり、人が暮らしているのか。その問いの答えを知ってから行くのと、知らずに行くのとでは、同じ砂浜の白さも違って見える気がする。
だからここでは、行き先としてのハワイを島ごとに整理する前に、まず「人が最初にここへ来た話」から書いておきたい。物価は高い。それでも行く価値は高い——その理由の半分は、たぶんこの海の広さの中にある。
羅針盤を持たずに、海を渡ってきた人たち
ハワイに最初に暮らしはじめたのは、ポリネシアの航海者たちだった。彼らは双胴の航海カヌーに乗り、羅針盤も海図も持たずに、この孤島へたどり着いている。頼りにしたのは、星の位置、海のうねりの向き、鳥が飛んでいく方角——スターナビゲーションと呼ばれる航海術だ。出発地はマルケサス諸島やタヒチ方面とされる。いつたどり着いたのかは諸説あり、古くは西暦400年から1100年ごろという幅の広い推定が語られてきたが、2010年に公表された放射性炭素年代の再測定では、1219年から1266年ごろという、それまでより遅い時期に短期間で定住したとする説が示されている。ここは断定できるところではないので、そういう見方がある、という温度で受け取ってほしい。
この渡海が、たまたま流された偶然ではなく、確かな技術だったこと。それを現代に示したのが、1976年の航海カヌー「ホクレア号」だった。往路のハワイからタヒチまでを、ミクロネシア出身の航海士マウ・ピアイルグが計器をいっさい使わず、伝統の航法だけで導いてみせたのだ(復路は別の航海士が西洋式の計器を使っている)。星と波を読むだけで、数千km先の海の一点にある島へたどり着ける——その事実を知ったとき、私はハワイという場所の見え方が少し変わった。
ビーチに寝そべって空を見上げるとき、そこにあるのは同じ星空だ。かつて誰かが、その星を道しるべにして、命がけでこの島を探し当てた。観光地の海というより、長い航海のいちばん最後にたどり着いた岸辺なのだと思うと、波の音の聞こえ方まで変わってくる。
伝説は、島の地形の読み方だった
ハワイには、島の成り立ちと分かちがたく結びついた物語がいくつも残っている。火山の女神ペレは、いまもキラウエアに宿るとされる。噴き上がる溶岩や、流れて固まった黒い大地は、彼女の気配として語り継がれてきた。半神マウイは、ハレアカラの山頂で太陽を捕まえ、走り去ろうとする日をつなぎとめて、一日を長くしたという。マウイ島の名も、この伝説と結びつけて語られることが多い。ただし現地の言い伝えでは、島名は半神マウイに直接ちなんだものではなく、ハワイを見つけた者の息子(その息子がマウイ神にちなんで名づけられていた)に由来するとされる。
こうした話を、私は最初「観光名所に付いた飾り」くらいに思っていた。けれど島を知るほど、順序が逆だと気づく。溶岩がどこを流れ、日がどの稜線から昇るのか——土地の癖を読むための知恵が、神話のかたちで受け継がれてきた。伝説は飾りではなく、島の地形の読み方そのものなのだと思う。
ずっとあとの1778年、クック船長の一行がこの島に到達し、西洋との接触が始まる。それも事実として書き添えておくが、島の物語の主役はやはり、海を渡ってきた人々のほうだ。
どの島を選ぶかで、旅はまるで別物になる
ハワイと一口に言っても、島ごとに性格はずいぶん違う。行き先を思い描く段階で、島の輪郭をおおまかに掴んでおくと、あとの計画が楽になる。ここから先は目安として読んでほしい。実際の見どころや訪問できる範囲は時期によって動くので、最終的には各島の公式情報で確かめてほしい。
オアフ島は、初めてのハワイに向く島だとよく言われる。ホノルルやワイキキがあり、宿も店も交通も揃っていて、賑わいの中で過ごしたい人には過ごしやすい。ハワイ島——通称ビッグアイランドは、火山と星空の島だ。キラウエアは南側の大部分がハワイ火山国立公園に含まれているが、火山活動の状況によって見学できる範囲が変わるため、訪れる前に公園の公式発表を必ず確認しておきたい。
マウイ島は、ハレアカラ山頂から見る日の出で知られる。太陽を捕まえた伝説の舞台で朝の光を待つのは、この島ならではの時間だ。なお、2023年8月8日にラハイナで起きた山火事は、公知の事実として触れておく。復興の状況や訪問できる範囲、現地でのふるまい方については、軽々しく煽らず、現地の公式情報を確認したうえで判断してほしい。
カウアイ島は渓谷と原生の緑が深く、手つかずの自然に近づきたい人に向く。モロカイ島やラナイ島は、人の少ない静けさが持ち味だ。あれもこれもと欲張ると移動だけで疲れてしまうので、初回はオアフ島に、もう一島を足すくらいの型を目安にすると収まりがいい——これも決まりではなく、あくまで一つの目安だが。
画面越しにわかる空気もある
行き先を思い描く材料は、地図や文章だけではない。誰かが撮った数分の映像に、写真では掴めない空気が写っていることがある。ここでは、旅の実感に近づける一本と、島の見どころを落ち着いて見せてくれる公式映像を、編集部の判断で選んで置いておく。どちらも見た感想を語るためではなく、選んだ理由を伝えるための紹介だ。
まず置いておきたいのは、旅行系YouTuberのおのだ氏が2026年3月に公開した「急遽、一人でハワイに行くことになりました。。。」という一本。タイトルのとおり、思い立って旅に出るときの慌ただしさと高揚がそのまま映っているだろうと見込んで、旅の始まりの空気が伝わる一本として選んだ。行き先を決めたあとの、あの落ち着かない数日を思い出させてくれるはずだ。
もう一本は、島に着いてからの目線を補うために。ハワイ州観光局の公式チャンネルが公開している、ダイヤモンドヘッドを家族で歩く映像だ。公開情報によれば、観光局が公式に提供している観光映像で、定番の見どころを落ち着いた画で見せてくれる。個人の旅の高揚とはまた別の、地に足のついた紹介として並べておきたい。
公式提供の観光映像 【Youは何しにハワイに?】ダイヤモンドヘッド!家族で思い出作り!癒し! ハワイ州観光局の公式チャンネル(@hitube)が公開する観光映像。編集部が独立して選んだもので、提供・タイアップの関係はありません。(YouTubeで開きます)物価は高い。それでも、と私は思う
正直に書いておくと、ハワイの物価や宿泊費は高い。具体的な金額は時期によって大きく動くのでここには書かないが、調査した時点でも高い水準とされ、しかも変動する。だから、実際にかかる費用は、公式サイトや予約サイトでその都度確かめるほかない。数字を鵜呑みにできない場所だ、とまず認めておきたい。
それでも私は、行く価値のほうが高いと思っている。理由は、この文章の前半にほとんど書いてしまった。大陸から三千kmの海を、人が星を頼りに渡ってきた——その物語の上を歩く旅だからだ。溶岩でできた黒い大地、光の濁りが少ない夜空、三千kmの海がつくった波。ひとつの島にこれだけの密度が詰まっている場所は、そう多くない。高い費用の向こうにあるのは、値段では測りにくい種類の時間だと思う。
そのうえで、抑えられるところは抑えたい。台所付きのコンドミニアムに泊まって現地のスーパーを使う、航空券や宿は早めに押さえる、混み合う時期を少しずらす——こうした工夫は一般論として知られている。どれも効き方は時期次第なので、やはり最新の条件は自分の目で確かめてほしい。判断材料をひととおり並べたところで、入口の一つとして次の枠も置いておく。
発つ前に、静かに確かめておきたいこと
行き先が固まってくると、情景の話の合間に、実務がそっと顔を出してくる。まずパスポートの残存有効期間。渡航先の条件を満たしているか、早めに一度見ておきたい。アメリカへの短期渡航にはESTA(電子渡航認証)が必要になるが、申請は必ず米国税関・国境警備局(CBP)の公式サイト(esta.cbp.dhs.gov)から行ってほしい。手数料を上乗せして代行する紛らわしいサイトが検索結果に混じることがあるので、そこは気をつけたい。
飛行時間は片道でも短くはなく、しかも偏西風の影響で往路と復路で所要が変わる。正確なところは利用する便の時刻表で確かめてほしい。時差もそれなりにあるので、着いた初日をどう過ごすかも頭の隅に入れておくといい。旅程が動きやすい人ほど、予約のキャンセル・変更条件や旅行保険の補償範囲を、決めた直後にひととおり見ておくと安心だ。こうした準備は情景の外の作業に見えて、旅がもう始まっている合図でもある。
飛行機がゆっくり高度を下げ、あの何もなかった青の中に、緑の島が近づいてくる。窓に額を寄せながら、私はいつも、羅針盤も持たずにこの島を探し当てた人たちのことを思う。彼らが何週間もかけて渡った海を、私たちは数時間で越えていく。旅の贅沢さの正体は、たぶんその落差の中にある。物価は高い。それでも、行く理由のほうがずっと多い。
参考(外務省・公式一次情報)
- 外務省 海外安全ホームページ:https://www.anzen.mofa.go.jp/
- 米国税関・国境警備局(CBP)ESTA 公式申請サイト:https://esta.cbp.dhs.gov/
- 外務省 パスポート(旅券)案内:https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/passport/
- ハワイ州観光局 公式サイト(日本語):https://www.allhawaii.jp/